会長記者会見
2022年2月17日
髙島会長記者会見(三井住友銀行頭取)
岩本専務理事報告
最初に、事務局から2点報告申しあげる。
1点目は、資料のとおり、本日の理事会において、中小企業金融等への取組みについて申し合わせを行った。これは年度末に向けて、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける企業等を中心に、資金繰り支援の要請がより一層増えることが想定されることから、銀行界として資金需要に柔軟かつ積極的に対応し、金融仲介機能の発揮に引き続き全力を挙げて取り組むことを申し合わせたものである。
2点目は、資料のとおり、本日の理事会において、成年年齢引下げを踏まえた銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせを行った。これは成年年齢の引下げを踏まえ、18歳、19歳の若年者が過大な債務を負うことがないよう、ことさら若年者を対象にした広告・宣伝を行わないよう努めることなどを申し合わせたものである。
会長記者会見の模様
(問)
私から3点伺う。1点目であるが、オミクロン株の拡大で企業の倒産件数が今後増加に転じるという見方が出ている。今後の倒産件数の見通しについて伺いたい。また、メガバンクの第3四半期の決算では、大口先の信用劣化により、相応の引当金の計上が見られたが、今後の与信費用の見通しについても併せて教えてほしい。
2点目であるが、足元で、銀行による事務手数料の新設や値上げが相次いでいる。現金の取扱いコストが比較的安価であることは、日本における現金主義を根付かせ、デジタル移行を阻害する要因になっていると考えている。適正な手数料のあり方について、全銀協の考えを聞かせてほしい。また、銀行界として、デジタル移行をどのように促していくのかについてもご見解を伺いたい。
3点目であるが、コロナ禍で金融インフラとしての機能が求められるなか、エッセンシャルワーカーとしての銀行員に対する認知も高まってきていると思う。一方で、メガバンクをはじめとした各行は、デジタル化や来店者数の減少を背景に、店舗の次世代化や集約を進めている。店舗運営の難しさが高まるなかで、今後、店舗戦略・店舗運営はどのように推移していくとお考えか。
(答)
まず、1点目について。東京商工リサーチのデータによると、2021年通年の全国の倒産件数は6,030件で、57年ぶりの低水準であったが、新型コロナウイルス感染症に関連した倒産は2020年対比で約2倍であった。足元、感染拡大に伴う再度の社会経済活動の制限により、厳しい経営環境が続いているセクター、企業も多いため、引き続きお客さまの経営状況を個々によく見ていく必要があると考えている。
今後の倒産動向について正確に見通すことはなかなか難しいが、銀行界としては、対面型サービス業など、影響を大きく受けている業種を中心に、しっかりと資金繰り支援を行っていく方針は変わらないので、今後も倒産が急増するという事態は現時点で想定していない。
また、ご指摘にあった大口先に係る引当計上は、あくまで個別の事象であり、クレジット環境の全般的な悪化を象徴しているものとは捉えておらず、今後の与信費用についても急増するとは見ていない。銀行界としては、引き続きお客さまにしっかりと寄り添いながら、個々の状況を丁寧に伺いつつ、きめ細かな支援を行っていく。
2点目は、事務手数料に関するご質問であった。わが国においては、ここ数年でキャッシュレス決済の普及が進んでいるものの、現金の流通残高は依然として高止まりしている。日本銀行の統計によると、昨年12月末時点における現金の流通残高は約127兆円であり、これは日本の名目GDPの約2割を占め、他の先進諸国と比べても引き続き高い水準である。
このように、わが国で現金の流通が多い要因の一つとしては、現金自体への信頼性が非常に高いことに加え、ご指摘のとおり、現金の取扱いに伴うコストをこれまで多くの人が意識してこなかったという点も挙げられると思う。
しかしながら、実際には社会全体で生じている現金の取扱いコストが大きいことも事実である。銀行界としても、キャッシュレスの利便性をお客さまに実感していただくことによって、社会全体のキャッシュレス化を推進し、わが国の生産性向上に貢献して参りたいと考えている。
近年、現金を取り扱うサービスの手数料のなかに、現金の取扱いコストを適切に反映させるという事例も出てきていると認識している。
ただ、これまでの会見でも申しあげてきたとおり、手数料のあり方は、あくまで各行がそれぞれの経営戦略や事業戦略にもとづいて判断していくべきものである。全銀協としては、会員各行がキャッシュレス化やデジタル化に取り組むうえで参考となる情報や好事例を積極的に発信することなどを通じて、今後も各行の取組みを後押しして参りたいと考えている。
3点目は、今後の店舗戦略についてのご質問であった。店舗戦略・店舗運営全般は、まさに各行の戦略にもとづき判断されるものであるため、私からはあくまで一般論として申しあげたいと思う。
まず、ウィズコロナの現状においては、お客さまおよび職員の健康と人命保護を最優先としながら、社会機能の維持に必要不可欠な金融インフラとして必要なサービスの提供を継続すべく、各行において最大限の努力や工夫を行っているところである。
今後の店舗戦略・店舗運営について一概に申しあげることは難しいが、コロナ禍を経て一つ確かなことは、取引のデジタル化の流れが加速しているという点であろう。実際に店舗への来店客数は減少しており、リアルからデジタルへというトレンドは今後も大きくは変わらないと見ている。
こうしたなか、各行においてもお客さまの利便性に配慮しつつ、デジタル・リモートチャネルの活用などにより、店舗ネットワークの最適化や軽量型店舗への転換など、店舗戦略をめぐる検討が一層進むのではないかと考えている。
また、デジタル化が進むほど、一方では人によるフェース・トゥ・フェースでのサービスの価値やニーズが高まる面があるので、例えばコンサルティング機能の提供などに、よりフォーカスした動きが出てくることも考えられる。
いずれにしても、お客さまのニーズや銀行店舗の社会的な役割も踏まえつつ、各行において更なる検討が進められていくものと考えている。
(問)
3点質問する。一つ目は、オミクロン株の感染拡大で日本各地にまん延防止等重点措置が適用されてから1カ月程度が経過している。引き続き適用が延長される見通しだが、年初に語っておられた経済の見通しについて変更等はあるか。まん延防止等重点措置により、今後の企業業績や消費活動についてどのように影響が出ると見ているか。
二つ目は、ウクライナ情勢への見解について。緊張感はさらに高まっているが、今後想定される銀行業界、銀行ビジネスへの影響や、あるいは必要な対応について現時点でどのように考えておられるか。
三つ目は、賃上げについて。春闘がスタートしたが、業界全体として、あるいは全銀協として会員行に対してどのような対応を期待するか、見解を伺いたい。
(答)
まず、1点目の今後の景気・経済見通しについて。年明け以降、オミクロン株の流行により感染が急拡大し、36都道府県で「まん延防止等重点措置」が適用される状況となっている。ご指摘のとおり、2月13日に期限を迎えた13都県では、重点措置が3月6日まで延長されることとなっており、その他の道府県については、まさに現在検討をされていると承知している。
感染の再拡大による日本経済への影響については、消費活動が抑制されるほか、感染者や濃厚接触者の自宅待機の影響で、工場の一時休止を余儀なくされる事例なども見られており、企業活動にも一定の影響が生じているケースがあると認識している。それらにより対面型サービス業や一部の製造業を中心として、企業業績が下振れるリスクがあると考えている。
また、感染症の帰趨とその実体経済への影響に加えて、人や物の供給制約や資源価格の高騰に起因するグローバルなインフレ傾向が長期化していることなどを踏まえると、景気の下振れリスクは拡大していると言えるのではないかと思う。さらに、地政学的リスクの上昇や、FRBをはじめとした各国中銀の金融政策の転換に起因する金融市場の変調にも、よく目配りしていく必要がある。
したがって、今後の経済見通しについては、予断なく慎重に見極めていく必要があると考えているが、昨年9月末の緊急事態宣言解除後に消費が大きくリバウンドしたことにあらわれているように、オミクロン株の収束傾向のなかでは消費の回復が期待できることもあり、本年1月の会見でも申しあげたとおり、2022年全体を見通すと、引き続き世界経済の回復基調が続くもとで、わが国においても経済活動の正常化が進み、景気回復の動きが次第に明確化していくことがメインシナリオであろうと考えている。
二つ目の質問はウクライナ情勢であった。ウクライナをめぐる情勢については、まさに予断を許さない状況と認識しており、日々、国際社会の動きを注視している。
外交的な交渉による早期解決を期待しているが、起こり得るリスクシナリオとしては、報道にも種々出ているとおり、欧米諸国による、ロシアの特定個人や企業に対する経済制裁対象への追加指定、ロシア系の金融機関に対する金融制裁、資源関係のプロジェクトの停止などが想定され、わが国も例外ではなく、何らかの制裁を検討する可能性があると承知している。
また、それらの制裁に呼応してロシア側が、エネルギー輸出の制限や、外資系企業に対する活動制限を課す等、報復的なアクションが出てくることも考えられる。これらのリスクシナリオが顕在化した場合、銀行では、ロシア関連のエクスポージャーを多く有している欧州銀行への影響が特に大きいのではないかと懸念される。邦銀においても、直接的には制裁措置への適切な対応が求められることは当然であるが、それ以外にも、エネルギー価格の高騰や、世界的なインフレのさらなる広がり、金融市場の混乱といった波及的なリスクも極めて大きくなり得るため、十分に注視をしていく必要があるだろう。
いずれにしても、状況に応じて、銀行界として求められる対応を冷静に見極めていくことになるが、少なくとも外交的な対話の継続は合意されており、対話によって平和裏に解決されることを切に期待している。
3点目は、賃上げ、春闘についてであった。従業員の処遇改善については、事業の継続と雇用維持の観点も含めて、会員各行における労使間の協議により、適切な方針、手法を見出すことが基本と考える。従業員は、お客さま、株主、社会などと並び重要なステークホルダーであり、コロナ禍のもとでお客さまへのサービスの継続に尽力してくれた従業員に報いていく、という視点は極めて重要と考えている。
昨年12月の会見でも申しあげたが、各行が各地域において期待される責務や経営環境は必ずしも一様なものではないことから、最終的には、労使間の協議を経て、いわゆる「賃金決定の大原則」に則り、自行の実情に適した処遇を検討していくということだろうと考えている。
(問)
国内の長期金利の見通しについて伺いたい。先日、日本銀行による指値オペが実施される水準まで金利が上昇した。足元では住宅ローン金利も上昇するなどの動きが出ているが、長期金利上昇に伴う銀行ビジネスへの影響についても併せて伺いたい。
(答)
まず、日本の話をする前に米国の話であるが、FRBによる早期の利上げ実施が視野に入ったことなどを背景に、長期金利が上昇傾向にある。こうした海外市場の動向を受けて、わが国においても10年物の国債金利が、ご指摘のとおり、FRBのテーパリング開始前である昨年9月末時点の0.07%程度から、足元では0.20%を上回るなど、上昇傾向にある。
ただし、長期金利については、ご承知のとおり、日本銀行によるイールドカーブコントロールにおいて10年物国債金利の変動幅を、0%を中心に上下0.25%程度とすることが昨年3月に明確化されている。日々の市場調節は日本銀行の専管事項ではあるが、今週の頭、2月14日に、0.25%の固定利回りで金額無制限の国債買い入れ、いわゆる指値オペの実施がアナウンスされており、変動幅を上回る金利上昇時には、積極的な国債買入れを実施するスタンスが改めて示されたことで、海外金利との相対的な比較でいえば、金利上昇幅はある程度抑制的なものになるだろうと思っている。
市場環境の変化による銀行ビジネスへの影響については、金融機関によって状況が異なるので、あくまで一般論として申しあげるが、短期的には、債券投資における保有債券の評価損益の悪化といった影響がある一方で、中長期的に銀行全体で見た場合には、金利上昇の背景が景気の回復にある限りにおいては基本的にプラスであり、長短金利差の拡大による預貸利鞘の拡大や投資利回りの改善が期待される。
引き続き、金利動向を含めた市場環境の変化を捉え、事業ポートフォリオ全体を見渡して収益改善の努力をしていくことが重要であると考えている。
(問)
カーボンニュートラルの観点から2点伺う。
1点目は、カーボンプライシングについて。経済産業省からGX(グリーントランスフォーメーション)リーグ等の構想が公表されるなど、政府において検討が進んでいるが、銀行界としての見解や今後の対応方針を教えてほしい。
2点目は、欧州委員会は、原子力発電や天然ガスを気候変動対策に適した事業と条件付きで認めたが、これまで欧州はダイベストメントの考え方が主流で、グリーンでないものへの投融資は引き上げていく流れがあったと思う。今回の欧州委員会の決定への見解や、邦銀の対応方針について教えてほしい。
(答)
まず1点目のご質問について。2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素化を具体的にどのように進めていくか、まさに世界的に重要な課題となっていることは論を俟たない。そのなかでも、カーボンプライシングは、CO2の排出量削減を市場メカニズムを用いて促していくという経済的手法として、各国で検討されている。
わが国でも、先月の岸田総理の施政方針演説のなかで、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、カーボンプライシングを含む多くの論点に方向性を見出していくことが表明されている。
また、2月に入ってから経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」では、企業が二酸化炭素の排出量を売買できる取引市場の創設に向けた取組みを進めることが表明されており、今後実証試験が行われていくものと承知している。
カーボンプライシングのあり方は、銀行界にとっても、お客さまとのエンゲージメントや我々自身の与信管理、あるいはリスク管理上のシナリオ分析などにおいても考慮すべき要素の一つであり、今後の非常に重要な論点だと考えている。
まさに足元で、各企業がGXリーグへ参加するかどうかを検討されているところで、GXリーグのルールメイキングもこれからという状況である。
お客さま各社の賛同状況や脱炭素に向けた取組みをよくフォローするとともに、今後の市場整備に向けて意見発信をしつつ、その動向を注視して参りたい。
2点目は、EUタクソノミーについて。ご指摘のとおり、今月初め、欧州委員会は、EUタクソノミーを拡張して、一定の要件を満たす原子力発電あるいは天然ガスをトランジションと位置付ける規則案を正式に採択し、今後、EU理事会と欧州議会において審議が行われる予定となっている。ただし、EU各国においても引き続きさまざまな意見や温度差がある論点であるとも承知しており、私どもとしては、各国の電力構成や資源依存度の違いに起因する論調の変化、あるいはその他ステークホルダーの動向にも留意しつつ、引き続き議論を注視しているところである。
銀行界は、お客さまの気候変動リスクへの対応を金融面で支えていくことになるが、具体的な支援のあり方については、業種や企業の特性、事業を展開する地域など、お客さまのおかれている状況によって異なってくる。
したがって、これまでの会見でも申しあげてきたが、単純に一律にダイベストメントするということではなく、まずはエンゲージメントを通じて、気候変動対策に係るお客さまの課題をしっかりと理解、把握したうえで、長期的な視点に立って、お客さまの事業が社会のネットゼロに貢献していくために必要な投資を促し、支援するなど、引き続き重要な役割を果たしていく必要があると考えている。
(問)
2点伺う。1点目は、資金運用について。今、FRBの利上げ局面にあるが、利上げペースはなかなか見通しが難しく、資金運用において外債の含み損の拡大が想定されることもあり得ると思う。各行は難しい運用を求められると思うが、いかがお考えか。
もう1点は、マイナス金利について。日本銀行が制度を導入してから6年が経過している。金融機関にとっては厳しい収益環境が長く続いていることになると思うが、預貸率も低下するなかで、預金者負担の観点ではどのようなことが起こり得ると考えているか。
(答)
まず、1点目について、確かに非常に難しい環境になっているが、米国では高インフレが長期化するリスクに備えて、昨年12月のFOMCにおいてテーパリングのペースを加速させることが決定された。
これを受けてマーケットでは、次回3月のFOMCでの利上げが予想されており、米国債の金利は上昇傾向にある。こうした市場環境の変化による市場運用業務への影響については、各銀行、各金融機関においてそれぞれポジション・状況が異なるため、あくまで一般論として申しあげたいと思う。
長期金利の上昇は、一般に、邦銀の外債投資に関しては、短期的には保有債券の評価損益が悪化していくという影響がある。他方、長短金利差の拡大、すなわちイールドカーブが立っている状況では、中長期的な投資利回りの改善効果もある。また、金利上昇時の評価損益の悪化については、ヘッジ取引を行うことや、他のアセットクラスを組み合わせることによって損益影響を抑えるなど、リスクリターンを総合的に勘案した運用が求められることになる。
オミクロン株を含めた感染症の帰趨、そして実体経済への影響など先行きに不透明感が残るなかで、今後のFRBによる利上げ幅やそのペースによっては金融市場においてボラティリティが一段と高まることも想定される。
ご指摘のとおり、運用環境としては非常に難しいALMオペレーションが求められる局面であるのは事実である。まさに市場の環境変化を適切に捉えたポートフォリオの構築とリスク管理が重要になってきているという意味では、腕が試されている局面にあると考えている。
続いて、日本銀行のマイナス金利政策が6年経過したことに起因するご質問について。金融機関にとって厳しい収益環境が長期間続いているのは、先月の会見でも申しあげたとおりである。
日本銀行の統計によると、1月における日本銀行の当座預金のマイナス金利適用残高は、市中銀行全体で約28兆円となっており、市中銀行全体で1月の1ヶ月だけで約23億円のマイナス金利を負担しているという計算になる。
このようなマイナス金利政策による影響だけが背景というわけではないが、各行がお客さまへの金融サービスの提供を持続可能なものとするべく、例えばデジタルチャネルによる取引の推進や、営業拠点や手数料のあり方も含めた総合的な収益・コスト構造の見直しを進めていると承知している。
デジタル技術の著しい進展、あるいは銀行業務を取り巻く規制環境の変化など、競争環境が激化するなかにあって、今後とも銀行がお客さまにとって必要な存在であり続けるためには、お客さまにより高い付加価値を提供し続けることにより、お客さまにご理解いただいたうえで対価をいただくのが筋だろうと考えている。
今後ともそうした観点を意識しつつ、各行においてさまざまな取組みが模索されていくものと考えており、また全銀協としても、会員各行への情報提供等を行って参りたいと考えている。
(問)
先日、三菱UFJフィナンシャル・グループが日本銀行のマイナス金利残高に抵触したと報道されたが、他メガを中心に他行にも同じような動きが波及していく可能性についてどのようにお考えか。
(答)
昨日、日本銀行が発表した業態別の当座預金残高によれば、昨年12月の都市銀行の日本銀行当座預金残高のうち、2,730億円にマイナス金利が適用されたと認識している。
0%が適用されるマクロ加算残高の余裕枠も含めて、当座預金の状況は銀行、金融機関ごとにさまざまであり、今後の見通しについて一概に申しあげることは難しい。
足元の預金動向についていえば、全銀協の統計ベースで、前年同月比27兆円プラスの約862兆円で、増加傾向にあることも事実である。政策金利残高への対応として、例えば、国債の購入やインターバンク間の資金取引などの運用面でコントロールをしているところも当然あるが、全体のリスクリターンなどを総合的に考えると、当座預金にたとえマイナス金利が適用されても、資金を置いておくという選択肢もあり得るのだろうと思う。
したがって、こうした運用方針については、まさしく資金繰りの見通しやALM方針、経営戦略にもとづいて各行がそれぞれ判断していくものであると考えているので、一方的に今ご指摘のような状況が各行にどんどん広がっていくとは言いにくい問題であろう。
(問)
2点伺う。1点目は、マネロン関連について。マネロン・テロ資金供与対策の一環として、顧客情報を適宜把握していく継続的顧客管理が国内でも始まっている。一方で、返答率が低いことや苦情が多いとも聞く。加えて、最近では継続的顧客管理を装った詐欺事案も発生している。全銀協が先般発表した海外動向調査を見ると、海外は日本ほど情報取得に困っていないとの結果が出ている。この海外とのギャップを埋めるために日本の金融機関が取り組むべき課題について教えてほしい。
もう1点は、脱炭素関連について。日本においても、3メガバンクを中心として、投融資先の温暖化ガス排出量、いわゆるファイナンスド・エミッションの計測・開示が、まずは電力セクターにおいて始まっている。2022年度以降は計測対象となるセクターの拡大に加えて、さらに具体的な削減目標も提示していくフェーズに入る。非常に難度が高いプロジェクトだと思うが、排出量算定や削減目標設定に際しての産業界との対話のあり方や、取引先の脱炭素化を促すための課題について考えを聞きたい。
(答)
1点目は、マネロン・テロ資金供与対策の一環としての継続的顧客管理に関する質問であった。まず、継続的顧客管理を装った詐欺事案については、全銀協としても会員行宛てに通達を発信するとともに、ウェブサイト上などで注意喚起を行っており、引き続き被害の防止に最大限努めて参りたい。
継続的顧客管理については、昨年の8月末に政府から公表された「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する行動計画」においても重点項目の一つとして挙げられている。全銀協の研究会から公表した海外状況調査報告書でも示されているとおり、日本では継続的顧客管理の必要性についてまだ十分に浸透していないのが現状である。
この背景には、日本では、歴史的にほぼ完全なかたちで金融のインクルージョンが進んでいたなかで、今になってマネロン・テロ資金供与対策のために継続的に顧客情報のアップデートが必要になったことが、なかなか実感を持って理解し難いといった点や、諸外国との法令の違いもあろうかと思う。
こうした問題意識のもと、全銀協では、お客さまの理解を得るため、2018年度から金融庁と連携し、継続的に広報活動を実施するとともに、会員行に対しても、海外事例の共有や還元を積極的に行っている。また、会員各行においても、デジタルチャネルの活用など、回答率を上げるための工夫が進んでいる。今後もこうした取組みを継続していくことが重要であるし、全銀協としても引き続きそのような取組みを共有する必要があると思う。国民の認知度向上という観点からも、本件は特に官民一体で取り組んでいくことが重要である。引き続き関係省庁と緊密に連携して進めて参りたい。
2点目は、ファイナンスド・エミッションについての質問であった。国内大手行は、昨年、ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)に加盟し、ご認識のとおり、2022年以降順次、重要セクターに対する投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量、いわゆるファイナンスド・エミッションについて、2030年までの削減目標を設定したうえで、具体的な行動計画を開示することになっている。
今後、具体的な取組みを進めるうえでは、お客さまの気候変動関連情報の開示の拡充ならびに精緻化のほか、ファイナンスド・エミッションの算定手法の高度化も行っていく必要があると考えている。
特に、お客さまの気候変動関連情報の開示については、ファイナンスド・エミッションの把握のみならず、お客さまとのエンゲージメント、すなわち気候変動問題への対応についての共通認識を持ち、脱炭素に向けた取組みを議論し、支援していくうえで重要な基礎となるものである。その観点から、今後、わが国企業においてもTCFD提言に準拠した開示の普及と、開示内容の継続的な充実が期待される。
銀行界としては、そうしたエンゲージメントを通じて、お客さま1社1社のネットゼロに向けた取組みを着実に支援していくことが、ひいては、投融資ポートフォリオのネットゼロに向けた取組みにも繋がっていくと考えている。
(問)
上場企業の四半期開示について伺う。四半期開示が短期目線との指摘があるが、銀行決算をみる限り、あくまでも通期目標を主に動いていることに加え、ましてや最近は多くの銀行が中期経営計画の数字との比較で達成度を測っている。少なくとも銀行に限って言えば、本当に四半期開示イコール短期目線なのかというところもあり、経営陣の長短の目線の持っていき方は、報酬インセンティブの設計次第で何とでもなるような気もする。この辺りをどうお考えか。非財務情報の開示が求められていくなか、開示全般についての会長のお考えを聞きたい。
(答)
中長期的な事業の見通しについては、さまざまな企業が中期経営計画やそれに類する計画を策定しておられる。私ども三井住友フィナンシャルグループにおいても、3年間の計画を策定し経営を行っている。
金融界を取り巻く環境について申しあげると、デジタル化の進展に伴い、社会・経済のさまざまな面で構造的な変化が急速に進んできており、金融業界においても金融と非金融の垣根を越えたサービスの再構築が進んでいる。
また、気候変動対応や人権問題をはじめとする環境・社会問題が企業行動に対してもクローズアップされるなかで、持続可能な社会の実現に向けた機運の高まりと併せて、お客さまが抱えておられる課題に対して求められるソリューションは一層複雑かつ高度化してきており、私どもが果たすべき役割もますます拡大していると考えている。
そうした環境のなかで、金融機関として、短期的な視点だけではなく、中長期的な経営の方向性や戦略の目標、それらに対する進捗を丁寧に示しつつ、ステークホルダーとコミュニケーションを図っていくことは極めて重要なことだと考えている。そうした認識から、会員各行におかれても、IR活動も含めさまざまな工夫を凝らしながら、ステークホルダーとのコミュニケーションに取り組んでおられるものと認識している。
四半期開示の見直しや非財務情報の充実についても、今後、金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループで議論をしていく予定だと認識しているが、こうした中長期的な視点に立った開示のあり方や、ステークホルダーとのコミュニケーションのあり方について、相応しい制度を考えていくことが大事であり、そのような議論が行われることを期待したいと思う。
(問)
2点伺う。1点目は、先ほどから資源価格の上昇などについて言及があるが、現状、国内でも食品や小売など、より消費者に密着した部分での具体的な値上げの動きが相次いでいるようである。それも含めた物価上昇による経済全般への影響、また、短期的な部分、中長期的な部分も含めた企業業績への影響についてどのように見ているか。
2点目は、ステーブルコインの発行について。日本でも民間企業で、今後の発行に向けた見通しが立ってきている状況である。今すぐどうこうということではないと思うが、中長期的に、銀行業界としてビジネスへの影響や、何か関わってくるものがあるかどうか、現状の見通しをお伺いできればと思う。
(答)
1点目の物価上昇の経済あるいは企業業績への影響について申しあげる。エネルギー価格や各種の資材、食品の原材料あるいは輸送費など、幅広い品目で商品市況が高騰しており、輸入インフレを通じて国内の企業物価や消費者物価の押し上げ圧力が高まっている状況と認識している。
まず、個人消費への影響を見てみると、昨年12月の消費者物価の総合指数は前年比プラス0.8%と、緩やかながら上昇が続いている。その内訳を見ると、ご指摘のとおり、食料価格が前年比2.1%のプラスとなるなど、輸入インフレの影響が徐々に現れていることが見てとれる。この輸入インフレに伴う価格転嫁には一定のタイムラグがあるので、今後も物価上昇圧力が継続する可能性があり、消費者マインドの変化や、個人消費の動向にはよく目配りをしていく必要があると考えている。
企業業績への影響については、昨年12月に公表されている日銀短観の価格判断DIを見てみると、仕入価格判断DIが足元で大きく上昇している一方、販売価格判断DIの上昇は緩やかなものにとどまっている。こうしたデータを見てみると、企業が仕入価格の上昇分を十分に価格転嫁できておらず、コストとして吸収している様子が窺える。今後も販売価格への反映が進まないとすると、当然企業業績に悪影響を及ぼす可能性があるということになるので、この点は注視していく必要があるだろうと考えている。
2点目のステーブルコインについては、今年1月に公表された、金融審議会 資金決済ワーキング・グループの報告書を踏まえ、現在、政府において、その発行者と仲介者に関する業規制の導入が検討されている。
ご指摘のとおり、こうした政府の動きと前後して、複数の銀行や事業者においてステーブルコインの発行が検討されているようである。それらのスキームや、価値の見合いとなる資産の中身や、想定されている活用局面などはさまざまであるように見受けられる。いずれも各社の創意工夫によって、お客さまに新たなサービスや付加価値を提供しようという試みであり、いわゆる競争領域に属する取組みであると考えている。
したがって、ステーブルコインに関して、銀行界として一律の対応を決めるべき性質のものではないので、銀行ビジネスへの影響も一概には申しあげにくい。ただ、今後も銀行界の中からも、新たな事業領域として取り組む動きが続いていくのだろうと思う。
(問)
本日、事務局から報告があった「成年年齢引下げを踏まえた銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」について、この申合せの背景と意味について改めて教えていただきたい。
(答)
2022年4月から新たに成人となる18歳、19歳の方は、先月の会見で申しあげたとおり、一般的にはまだ金融商品の取引経験が少なく、収入源が必ずしも固まっていないケースも多いと思われる。そのため、18歳、19歳の方に、借入れを伴う商品を提供する場合には、過剰な借入れや金融犯罪被害の防止など、顧客保護に十分に配慮した対応が必要である。こうした認識のもと、全銀協として、まさに本日の理事会で、「成年年齢引下げを踏まえた銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」を行った次第である。
この申し合わせのポイントは3点ある。1点目は、ことさら若年者を対象にした広告、宣伝を行わないよう努めること。2点目は、貸付額に関わらず、収入状況や返済能力の正確な把握に努めること。そして3点目が、資金使途の確認および金融犯罪への注意喚起を行い、借入れに不自然な点が見受けられる場合には、本人へのヒアリングを実施するなど、慎重な対応を行うように努めること、である。
政府の成年年齢引下げに関する関係閣僚会合においても、「若年者の消費者被害等を防止するための主な施策」が報告されている。全銀協としても、関係省庁などと連携をしながら、各行が顧客保護に配慮した業務運営を徹底できるよう、引き続き取り組んで参りたい。